世界遺産特集⑥古都のオアシス下鴨神社へ

「古都京都の文化財」のひとつとして世界遺産に登録されている下鴨神社。太古の自然が残された糺の森の中に鎮まる、由緒ある社の魅力をお届けします。
1.下鴨神社は、後世に伝えるべき文化財
エジプト政府がヌビア遺跡上流にアスワン・ハイ・ダムを建設し始めたことをきっかけに設立されたユネスコによる世界遺産。国境を越えて人々が共有し、次の世代に残すべきものが選定されています。
世界遺産は、文化遺産・自然遺産・複合遺産の3つに分類され、「古都京都の文化財」は、文化遺産として1994年に登録されました。構成遺産は京都にある17箇所の社寺や城。今回はその中で、京都市左京区に位置する下鴨神社をご紹介します。
下鴨神社の正しい名前は、賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)。室町時代の『二十一社記』という書には、「下鴨神社、上賀茂神社というは、下といい、上という地勢により区別するもの」とされています。
京都では、北に行くことを「上がる」南に行くことを「下がる」というように、“下鴨神社”という呼び名は、京の街を南北に流れる鴨川の下流に鎮まっている社であることを示しています。

第10代崇神天皇7年(紀元前90年)に神社の瑞垣の修造が
おこなわれたという記録があるため、
さらに古い歴史があると推測されています。
2.下鴨神社と上賀茂神社をつなぐ絆とは?
下鴨神社は、上賀茂神社とともに賀茂神社や賀茂社と呼ばれ、ともに古代の氏族である賀茂氏(かもうじ)の氏神として信仰されてきました。御祭神は西本殿に賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと)、東本殿に玉依媛命(たまよりひめのみこと)を祀っています。
賀茂建角身命は、古代の京都を開かれた神さまで京都の守護神として祀られています。
一方の玉依媛命は、賀茂建角身命の御子。玉依媛命が鴨川で禊ぎをしていると、丹塗矢が流れてきたので持ち帰って床に置いたところ、美しい男神になったので婚姻して賀茂別雷大神(かもわけいかづちのおおかみ)を生んだと伝えられています。
賀茂別雷大神は、上賀茂神社の御祭神。つまり、下鴨神社と上賀茂神社は祖父と孫、または親子という絆でも結ばれているのです。

3.太古の自然を残す糺の森
下鴨神社を訪れる人を、まず魅了するのは市街地とは思えないほど豊かに茂る森。
縄文時代から生き続ける糺の森です。
鳥居をくぐり、森に入ると、ひんやりとした空気と濃い木々の香りを感じることができます。参道の脇には、瀬見の小川や奈良の小川が流れ、別世界に迷い込んでしまったよう。
その昔は糺の森自体が磐座と考えられており、これらの小川の脇にはいくつもの祭祀の跡が発掘されています。
すばらしいのは、歴史ある神聖な森で「森の手づくり市」「古本まつり」といったイベントが開かれ、市民の憩いの場として利用されていること。今年の8月には「下鴨神社 糺の森の光の祭」と題するインタラクティブなアートイベントも開催されました。

森を抜けて歩いて行くと、ぱっと目の前が開け、色鮮やかな楼門が目の前に現れます。森の静謐な空気とはまた違う、明るく清々しい雰囲気。境内には、美しい社殿群が点在。西本殿、東本殿は国宝、ほかに31の建造物が国の重要文化財として指定されています。
鴨長明ゆかりの河合神社や17世紀に造営された本殿前の7つの社・言社、縁結びの神さまとして有名な相生社などもあるので、めぐってみるのもよさそうです。